心理療法を行えば、必ず効果が表れる、すぐに効果が表れる、
というイメージがあるかもしれません。
しかし、人によっては思うように効果が表れなかったり、
効果が表れるまでに時間がかかってしまうものもあります。
また、ある人にはメリットとなりえるのに、
違う人にとってはデメリットとなることもありますし、
ひどい場合、その人には逆効果となってしまうものまであるのです。
そうしたことからも、心理療法の選択は十分考えて行うことです。
とくに大切なことは、心理療法のデメリット面もよく考慮したうえで
行うことです。
今回は精神分析療法のメリットとデメリットについて考えていきたいと思います。
目次
精神分析療法とはどんなもの?
精神分析療法は、オーストリアの精神科医、ジークムント・フロイトが
創めたものです。
現在起きている問題は、過去に起きた辛い出来事が起因となっているケースが
あります。
【辛い出来事は早く忘れてしまいたい】【思い出したくない】
このように考えることから、こころの奥の無意識に押し込めてしまおうとします。
無意識というのは、思い出そうと思っても、思い出すことができません。
こころの奥の無意識に押し込めば、辛い記憶も忘れることができるため
そうするのですが、
その辛い記憶は完全に消え去ったわけではなく、
こころの奥の無意識に留まり続けているのです。
その無意識が意識化してしまい、辛くなってしまうため、
現在の問題が起きていると精神分析では考えるのです。
精神分析療法はこころの無意識を分析する
せっかく辛い過去を忘れようと、こころの奥にしまい込んでも、
意識化してしまっては気分も落ち込みます。
問題は、意識化してしまったとしても
思い出せるかどうかのこころの領域であったりすると、
いったいなぜ、そうした気分になってしまうのか、
なぜ、そんな行動をとってしまうのか、本人には自覚できないことにあります。
精神分析療法は、そうしたこころの無意識を分析して、
なぜ、そうした問題に発展しているのかを本人に気づかせる心理療法です。
原因に気づくことができれば、対策を考えることができるようになります。
精神分析療法の事例
Sさん(30代・女性)は、昔から、新たなことにチャレンジすることが苦手でした。
それは大人になった現在でも続いていて、お洒落な服を試してみるのが怖い、
ママ友を作るのが怖い、資格の勉強をしてみたいが、
何だか不安で手が出せないなど、
やってみたいことはあるにはあるけど、チャレンジができないのでした。
それでも欲求を抑えて、何とか今まで生きてきたのですが、
最近、友人から山登りの面白さを聞かされて、だんだんと興味がわいてきました。
インターネットで登山サイトを閲覧しては、自分も登ってみたい
と思うのでした。
精神分析で問題を明らかに
その後、友人の勧めで心理カウンセリングを受けることにしました。
精神分析療法で分析していくことで、
Sさんがなぜチャレンジしてみることが苦手なのか、明らかになってきました。
彼女は子どもの頃、市内のマラソン大会にチャレンジした際、
順位が後ろの方だったため、母親から
「あなたは何をやっても上手くいかないわね。」
と言われたことが原因のようでした。
それ以降も、チャレンジして努力したとしても、それが上手くいかないと
「あなたには何をやらせてもダメね。」
「あなただけよ、失敗ばかりする子は。ダメな子ね。」
と言われ続け、その結果、チャレンジすることに不安を抱くようになったのです。
問題がわかれば改善できる
それから月日が流れ、そうした過去は忘れていました。
彼女は、なぜ自分はこんなにも失敗を怖れてしまうのか、
自分のしたいことにチャレンジできないのか疑問を抱き続けました。
チャレンジしようとすると、なぜか、急に胸がドキドキするのです。
病院で検査もしましたが、どうやら体の病気でもないようでした。
友人の勧めでカウンセリングを受け、精神分析療法を試してみることで、
そうした親の心無い言葉が彼女を傷つけ、
チャレンジ精神を損なう要因になっていたことに気づいたのです。
彼女は今後、問題を克服するために、セラピストの助けを借りながらも、
自分自身を認めたり、自己理解を深めていくなどの努力をしていかねばなりませんが、
問題に気づくことができれば、改善もできるはずです。
彼女は今まさに走り出したのです。
精神分析療法のメリットとは
今までお話したように、精神分析療法の長所は、
自分では気づくことができない無意識に気づけることです。
人は辛いことがあると、自分を守るために、
その記憶をこころの奥に押し込んで扉を閉めてしまいます。
【忘れてしまったのだから、問題は解決した】
と言いたいところですが、こころの奥に押し込んだとしても
それは消えずに、やはりこころの奥に存在しているわけです。
そうした防衛機制が、その後、
様々な問題を引き起こす原因となってしまうのです。
防衛機制は無意識に行われるため、自分では気づくことができません。
しかし、精神分析療法の治療を行うことで、抑圧に気づくことができます。
そうすることで、問題の本質が何なのか、何を改善していけばいいのかがわかり、
現在の問題を解決していくことができるようになるのです。
精神分析は、こころの仕組みがわかりやすい
精神分析療法のもう一つのメリットは、
こころの仕組みがわかりやすいことにあります。
【こころのバランスが偏っているから、バランスをとっていこう】
と説明されても、ピンときません。
どこがどう偏っていて、自分のどういう部分を強めたり、弱めたらいいのか
抽象的でいまいちわかりにくい説明となってしまいます。
しかしながら、精神分析の理論である、こころの構造を説明することで、
自分のどういう部分が強すぎて、どんな部分が弱すぎるのかが
理解しやすくなります。
自分のこころが今現在どのようになっているかを知ることができるだけでも、
だいぶ楽になるのではないでしょうか。
こうしたことからも、精神分析療法のメリットとしては、
①自分では気づけなかった問題に気づける
②こころの中で起きていることが理解できる
と言えるでしょう。
精神分析療法のデメリットとは
どんな心理療法にもメリット、デメリットがありますが、
精神分析療法にも、デメリットがあります。
それは、問題がわかったとしても、
具体的にどのようにしたら変えることができるのか、その方法がないことです。
原因に気づくことは大切なことではあるのですが、
行動変容させる方法が無いので、その方法はクライエントが、
あるいはカウンセラーと一緒に考えていく必要があります。
その場合、ほかの心理療法を使ってその問題に取り組むこともあるため、
セラピーに時間がかかってしまうこともあるでしょう。
また、無意識を意識化していく方法として自由連想法などがありますが、
原因となっている無意識を突き止めていくことは時間のかかるものです。
このようなことから、精神分析療法のデメリットとして、
①行動変容させる方法が無い
②ある程度時間のかかる心理療法
と言えるでしょう。
精神分析療法の留意点
これは当スクールの主観ではありますが、
精神分析療法の難易度は高いと感じています。
無意識の、無限とも思われる中から、クライエントの問題となっている
無意識を突き止めていくのは容易ではありませんし、
セラピストの解釈次第ではどうとでもなってしまう、という懸念もあります。
セラピストが都合のいい解釈をしてしまっては、
クライエントは中々改善できません。
そのことで不信感が生じ、ラポールが崩れるなどして
セラピーが失敗してしまうことも考えられるのです。
そうした理由から、【どんな方でも施せる簡便な心理療法】
とはとても言えません。
時間をかけ、勉強、実践を繰り返して、
ようやく習得できる心理療法と言えるでしょう。
今回は精神分析療法についてお話しましたが、
本格的にカウンセリングや心理療法を学びたい!と感じた方は、
心理カウンセリングの資格を取得してみることをお勧めいたします。