アサーションとは、自分自身や相手を思いやりながら、自分の気持ちを適切に表現する方法です。

今回は、そんなアサーションの基本概念や、アサーションを行う際、勘違いしやすい点、

アサーションのメリット、デメリット、自宅でできるアサーショントレーニングの方法について
ご紹介したいと思います。

目次

アサーションとは?

アサーションは、自分や相手の気持ちを大切にしながら、自分の気持ちを表現する、

自他尊重の自己表現のことです。

アサーションで勘違いしやすい点は、ふだん言いたいことを言えない人が、単に自己主張する

もの、という勘違いです。

アサーションは、言いたいことを言う、自己主張する、というものではなく、

相手のことを考えながら、適切な自己表現をする方法です。

アサーションで大切なのは、バランスです。相手のことを考えすぎて、言いたいことを言えない

のもよくありませんし、逆に相手のことを考えず、自分の言いたいことを言ってしまうのもよくありません。

どちらかの偏った表現方法を使っていると、ストレスになってしまいます。

言いたいことを言えず我慢することは当然ストレスとなってしまいますし、

逆に言いたいことを言ってしまうタイプの方は、ストレスは少ないだろうと思われがちですが、

コミュニケーションが上手くいかなくり、人間関係に問題を抱えてしまいますから、

やはりこのタイプの方であっても、結局はストレスを感じてしまう結果となってしまいます。

このような、どちらかに偏っているタイプの方に、アサーションが必要になってきます。

アサーションの歴史

アサーティブに訴えている人々のイラスト

1950年代、コミュニケーションが難しい方に対して、行動療法であるアサーションを、

アメリカの心理学者のウォルピが開発し、カウンセリングに取り入れていました。

当時アメリカでは、黒人や女性に対する差別意識が著しく高かったのですが、

1960年代の人種差別撤廃運動では攻撃的にならずに、アサーティブに訴える方法として

使われるなどし、アサーションの必要性や、大切さが多くの人に知られるようになりました。

差別撤廃、人権尊重、人間性の回復と強い結びつきがあるアサーションですが、

日本では心理療法家の平木典子氏が日本でアサーションを紹介し、日本でも多くの方に知られるようになりました。

こうしてアサーションは、福祉や教育等、様々な分野で使われ、今では多くの企業や学校で、

アサーションの考えが取り入れられるようになりました。

自己表現は3つのタイプに分けられる

自己表現にも特徴がありますが、アサーションではその特徴を3タイプに分けます。

①攻撃的なタイプ、②非主張的なタイプ、③アサーションができているタイプの3つです。

それぞれ特徴を見ていきましょう。

①攻撃的な自己表現タイプ

自分本位で支配的。他人の意見に耳を傾けなかったり、他人の意見を尊重せず否定するタイプ。

相手に指示して、自分の思い通りにしようとするのが、この、攻撃的な自己表現タイプの特徴です。

一言で言えば、「私はOK、あなたはOKではない」という表現をします。

こんな人が攻撃的な自己表現タイプになりやすい!

地位の高い立場にある人が、このタイプになりやすいです。

親や教師、上司、専門家、権力者など、年齢が上、役割が上の人など。


②非主張的な自己表現タイプ

他人本位で消極的。自分の意見よりも他人の意見を通す、自己否定タイプ。

自分の気持ちを表現することが苦手なのが、非主張的な自己表現タイプの特徴です。

一言で言えば、「私はOKではない、あなたはOK」という表現をします。

こんな人が非主張的な自己表現タイプになりやすい!

攻撃的な自己表現タイプになりやすい方の、逆の立場にある人が、このタイプになりやすいです。

子どもや生徒、部下など、弱い立場にある人など。


③アサーティブな自己表現タイプ

自発的で積極的。自分の意見を伝えながら、相手の意見も尊重する、自他尊重タイプ。

柔軟に考えることができる、バランスの良い自己表現ができるのが特徴です。

一言で言えば、「私もOK、あなたもOK」という表現をします。

こんな人はアサーティブな自己表現タイプ!

アサーションができているタイプの人は、相手の地位が高かろうが低かろうが、

分け隔てなく、ありのままを表現することができる人です。

そんな人はアサーティブな自己表現タイプと言えるでしょう。


あなたはアサーションできていますか?アサーションチェックリスト

チェックリストを持っている女性のイラスト

かんたんにできる、アサーションチェックリストです。はいが〇、いいえが×です。

あなたは〇がいくつあるでしょうか?

はいに〇を付ける際、納得がいかないものには◎を付けるようにしてください。

※アサーションチェックリストは、平木典子氏の改訂版アサーション・トレーニングを参考にさせていただいています。

①列に並んでいたら、割り込まれました。
あなたはアサーティブに注意することができますか?


②洋服を選んでいると、店員さんが、あなたに洋服を選んでくれました。
ですが、その洋服は興味がありませんでした。
あなたは上手に断ることができますか?


③深夜、友人から悩み相談の電話がかかってきました。
ですが明日は仕事があるし、話を聞く気力もありませんでした。
あなたは友人に、今は話を聞けないと、伝えることができますか?


④友人が、休日にあなたと有名なアーティストのライブに行くことを

勝手に決めてしまいました。あなたはそのライブに興味がありません。
すでに2人分のチケットまで購入していた友人に、あなたはアサーティブな
対応ができますか?


⑤あなたはランチをすることにしました。ですが注文したものと違う料理が
運ばれてきました。
注文した内容に間違いがあったとき、あなたはそれを指摘することができますか?


⑥あなたは急いでいます。通りを急ぎ足で歩いていると、知人とバッタリ出会いました。
少し話をしましたが、あなたから別れを言って、立ち去ることができますか?


⑦あなたは仲の良い友人と、ある話題について話をしています。
しかし友人の考えを、あなたは受け入れることができませんでした。
あなたは友人に、自分の意見を伝えることができますか?


⑧あなたは相手の長所に気づきました。それを相手に伝えることはできるでしょうか?


⑨あなたには良いところがあります。それを相手に伝えることはできるでしょうか?


⑩あなたは相手に批判されました。批判されても攻撃的になったり、非主張的になったりせず
適切な表現ができますか?


⑪あなたは自分の間違いに気づきました。あなたは自分の間違いを認めることができますか?


⑫友人に頼みごとがあるあなた。その頼みをお願いすることはできますか?


⑬あなたは友人にお金を貸しています。期日になってもお金を返さない友人。
あなたはその友人に、お金を返してほしいと言うことはできますか?


⑭初対面の人に対して、自分の方から声をかけるタイプですか?


⑮恋人に対して、愛情をオープンに示すことはできますか?


⑯誰かに決断してもらうのではなく、自分の意志で決断することができますか?


⑰たくさん人がいる話し合いの席で、自分の意見を言うことはできますか?


⑱人前に出るのは平気な方ですか?


⑲自分の思いを遂げるためであっても、怒鳴ったり、大声で命令することはせず
適切に伝えることができますか?


⑳援助や助言を求められたとき、必要であれば断ることができますか?



〇の数が10個以上であれば、あなたのアサーションは普通、またはそれ以上でしょう。

自分の気持ちを上手に表現できているタイプと言えます。

ただし、◎が多い方は、自分を尊重しつつも、相手への配慮ができていない
可能性があります。

〇の数が10個以下であれば、アサーションが上手くできていないようです。

自分の気持ちを抑えて、我慢しがちなタイプと言えるでしょう。

〇の数が少ない方や、◎が多い方も、心配はいりません。

これからアサーション能力を高めていけばいいのです。

アサーションのメリット

アサーションができるようになると、どのようなメリットがあるのでしょうか?

①人間関係が良くなる

アサーティブになる、ということは、相手を尊重する、ということです。

少し言いすぎてしまったり、相手の気持ちを無視していると、やはり人間関係は悪くなってしまいます。

それが夫婦の場合では、一緒にいても苦痛を感じるでしょうし、同僚であれば仕事に差し支える

こともあるでしょう。

しかしアサーションができるようになれば、そうした人間関係も改善されていきます。

コミュニケーションが上手くできるようになれば、一緒にいて楽な気分になったり、

仕事も捗るでしょう。

人間関係が良くなる、というのは、自分自身にとっても大きなメリットになります。

②自分の可能性が広がる

アサーションが苦手な方は、人との出会いを避けがちになってしまう傾向があります。

上手く自己表現ができるようになれば、自分に自信もついて、新たな人間関係を作ることができます。

また、今まで上手く自己表現ができずに避けてきた相手とも、アサーションができるように

なれば、そこから新たな可能性が広がるでしょう。

例えば、いつもならそこで会話が終わっていた相手も、相手を尊重する態度で接すれば、

話が弾んで、もしかしたら生涯の友人となるかもしれません。

そうはならないとしても、お互いの考え方を共有し、新たな価値観を得て、視野が広くなれるかも
しれません。

アサーションができることで新しい可能性が生まれる、視野が広くなり、

自分を高めることができることはメリットになるはずです。

②ストレスを減らすことができる

自己表現が苦手で、自分の意見より相手の意見を優先してしまったり、

自分の気持ちを抑えることは、ストレスにもなります。

アサーションスキルがあれば、自分の意見を伝えることができるようになるのでストレスを

減少させることができます。

ストレスの原因は、人間関係から発生するものも多いので、この点もアサーションのメリットです。


アサーションのデメリット

では、アサーションにはデメリットはないのでしょうか?

アサーションは自他尊重の自己表現ですから、デメリットそのもの、というのは無いように思われます。

代わりに、アサーションについての勘違いはあるように思います。

①アサーションしなくてはならない、の勘違い

非主張的な自己表現タイプの方からすると、

アサーションは勇気のいるものだ、自己表現することにかえってストレスを感じる、

という方もいらっしゃるかもしれません。

アサーションで勘違いしやすい点はこの点です。

アサーションは無理にする必要はありません。

アサーションするのも、しないのも、その人の自由です。

とくに、相手が嫌いな人であったり、攻撃的で、怒鳴ったりしていて、

相手を尊重しても受け入れないであろう人は、まず、その人から離れたほうが無難です。

そういった人に、無理にアサーションする必要はないのです。

また、非主張的なタイプの方は、自己表現は基本的人権の一つで、

自分にもアサーションする権利がある、と考えてみてはいかがでしょう。

日本でアサーションを紹介した平木典子氏は、アサーションする権利のことを「アサーション権」
と呼び、

「自分はアサーション権を使ってもいいんだ」また、

「相手のアサーション権を認めることも大切だ」と考えています。


アサーションをするもしないも、あなた次第ですが、もし、アサーションしたくてもできない、という方は、

「アサーションしてもいいんだ、自分にもその権利があるんだ」と考えると、アサーションがしやすくなるでしょう。

②アサーションは容易ではない

これも、デメリット、というと違うのですが、今までアサーションができなかった人が

アサーティブになるのは簡単なことではありません。

なぜなら、アサーションすることは大切なことだ、と頭ではわかっていながらも、

非主張な自己表現や、攻撃的な自己表現のほうが正しいことだ、と、心の奥では考えているのです。

それは、その人が生きてきた環境で身についてきた考え方によるもので、変えることは容易ではありません。

変容するには、自己表現ができるようにトレーニングをしていく必要があります。

アサーションが必要な方にとって、すぐに変わることは難しいのですが、

アサーショントレーニングをしていくことで必ず変化していきますから、

自分のペースでかまわないので少しずつアサーショントレーニングをしていきましょう。

自宅でできる!簡単アサーショントレーニング

青い花の写真

アサーショントレーニングが必要な際、一番お勧めできる方法は、セラピーに通って

アサーショントレーニングを受けることです。

しかし、近くにそうした場所がなく、セラピーを受けることが難しい方もいるでしょう。

また、重度な方で、セラピストとアサーショントレーニングに取り組むのが怖い、

と感じる方もいらっしゃるかもしれません。

そこで、重度な方向けに、自宅でできる簡単アサーショントレーニング法をご紹介したいと思います。

①ラジオを聴いてアサーションを覚える

自己主張が苦手な方は、まず、具体的にどのように自己主張すればいいのかを知る必要があります。

あなたの近くに、アサーションが上手な人がいれば、その人の表現の仕方を学ぶのがよいでしょう。

表現をよく観察し、普段からどのような対応をしているのかを、その人から学んでみましょう。

しかし、そうした人が周りにいない方もいらっしゃるかもしれません。

その場合、ラジオを聴いてみるのもお勧めです。

ラジオパーソナリティは、考えながら話をするプロでありますから、自己表現が絶妙で上手です。

とくに、長年パーソナリティをしている人は、相手の話をよく聴き、自分の意見も上手く

伝えるのが上手い傾向にあるようです。

白黒ハッキリつける、というより、その中間のバランス感覚を上手に保って、アサーティブが

できているパーソナリティを見つけたら、その方はどのような表現をしているのかを、

よくチェックして、覚えておきましょう。

何度も聴いているうちに、「こうしたときは、こう返せばいいのか」といった具体的なやり取りの

方法がわかってきます。

観察学習もそうですが、聴いて覚えることも、身に付きやすい方法ですので、重度な方はラジオを

聴いてアサーションを覚えるのが、まずはお勧めできる方法です。

②家にある身近な物にアサーションしてみる

アサーションの方法がわかってきても、実際に人にアサーションするのは勇気がいるな、

と考える方は、人に試す前に、身近な物にアサーションしてみましょう。

椅子でも棚でも、家電でも、どんなものでもかまいません。

口に出して表現してみましょう。

「冷蔵庫さん、私は今減量中だから、プリンは遠慮しておきますね。でもお気持ちありがとう。」

このように、相手のことを考えながら、言いたいことを表現してみましょう。

人以外にアサーションするなんて、バカバカしい、と思っても、試しにやってみてください。

意外とアサーションする癖がついてきます。

③花や観葉植物にアサーションしてみる

身近な物にアサーションができるようになったら、今度は命あるものにアサーションしてみましょう。

お花や観葉植物、ペットでもかまいません。

飼い猫に向かって、

「あなたが新しいカーペットをビリビリにしたのは、とても悲しく思う。

なぜ、こんなことになったのか、理由を教えてくれるかな?」

このように、怒ったり怒鳴ったりせず、また何も言わずに主張しないでもなく、アサーティブに

表現してみましょう。

完全な、完璧な表現をする必要はありません。人にアサーションするのと同じように表現してみてください。

命あるものにアサーションをすると、本当に聞いているようで、アサーションしがいがあるのではないでしょうか。

重度な方は、こうして少しずつ自己表現に慣れていき、割と難しくないかも?

と、感じることが大切です。

④身近な人にアサーションする

これができるようになったら、身近な人にアサーションしてみてください。

最初のうちは、家族や友人、恋人など、脅威に感じない人を相手にアサーションしてみましょう。

もし、うまく自己表現できないようでしたら、「私は」と主語をつけてみてください。

「私はこう思っています」「私は違う意見です」など、「私は」とつけると、表現しやすくなりませんか?

「私は」とつけることを意識して、普段から練習してみてください。

どうしても無理そうならカウンセリングを受けてみる

ここまで読んでみて、アサーションはできそうでしょうか?

中には、自分の力では無理そうだ、と感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そんな方は、一人の力で何とかしようとせず、心理カウンセリングを受けてみてください。

臨床心理学を学んだ心理カウンセラーや、臨床心理学に関する資格を取得した心理カウンセラー

なら、アサーションについての知識や、アサーショントレーニングの具体的な方法を知っている

方が多いでしょう。

アサーショントレーニングを受けてみたい、本格的にアサーションについて学びたい、そんな方は

心理カウンセリング(セラピー)を受けてみることをお勧めします。

心理カウンセラーを目指す方の中には、アサーションが必要なクライエントに、

どのようなアサーショントレーニングをしていけばいいかを学びたい方もいらっしゃるかと思います。

アリア心理カウンセラー通学スクールでは、アサーショントレーニングも学んでいきます。

「セラピーにアサーションを取り入れたい!」とお考えの方にも、お勧めのスクールです。

今回は大切な自己表現の方法、アサーションについて紹介させていただきました。

アサーション以外に、どのような心理療法があるのかをお調べの方は、

こちらの記事も参考になさってください。



カウンセリング用語解説

行動療法とは

行動療法は今まで学習されてきた考えや行動を、適切なものに再学習していく、学習理論が基礎になっている療法です。

対人コミュニケーションで攻撃的になってしまったり、非主張的になって上手くコミュニケーション

できない方は、「どうせ〇〇に違いない」という思い込みが原因となっていることもあるため、

思い込みを修正して行動を変容させるアサーションも、行動療法の一つです。

※認知行動療法について知りたい方は、こちらの記事を参考になさってください。